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雨宿り……確かに雨宿りをしていたんですが、僕が雨宿りしていたのはあのお屋敷のはず……僕は夢でも見ていたのでしょうか?
祖父の手に引かれ、祠の覆屋から出た僕は、振り返って石塔の表面に浮き彫りされた琵琶を持つ女神の像をなんとなく眺めました。
その女神の前にはとぐろを巻く蛇も明瞭に描かれています。
「ああ、もしかしたら……」
その蛇の彫刻を見た瞬間、僕の頭の中でいろいろなことが繋がり、ある推測が浮かびました。
じつは、僕が引っ越して来た母の実家――即ち祖父母の家では代々弁財天を祀っており、蛇…特に白蛇はその化身と云われているので、非常に大切にして弁財様同様に祀っていました。
なので、いつも登下校でこの林の中の道を使う際、その道端にあるこの祠に僕も軽く手を合わせるくらいのことはしていたのですが……もしかすると、あの白い着物の女性は弁天様かそのお使いの白蛇で、自分のお屋敷――つまりはこの祠で夕立にあった僕を雨宿りさせてくれたのかもしれません。
それから祖父とともに家へ帰り、同じく僕を探してくれていた祖母や母も含めて家族達に今日あった出来事を話したのですが、この夢とも現ともわからない話を意外やみんな、疑いもせずに信じてくれました。
「――おい、おまえ、神さまの家へ行ったんだって!? すげーな!」
「なになに、もしかして霊感とかあるの!?」
そして、これもまた田舎の常として、誰が吹聴したのか僕の体験談は瞬く間に村中へと広がり、霊体験とか、そういう話が大好きな子供達の間でも僕は人気者となって、思わぬ副産物にも親しい友達がたくさんできました。
ひょっとしたら、代々家で祀っている守り神の弁天様が村に馴染めない僕を見かねて、そんな結末も含めた御利益を与えてくださったのかも……というのは少々考えすぎでしょうか?
いまだにあれが夢だったのか? それとも現実の出来事だったのか? 正直、半信半疑なところではあるのですが、子供ながらにも強く心に残っている、なんとも不思議な僕の経験談です。
(雨宿り 了)
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