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大きな切妻屋根のある母屋で、その裏には白壁の土蔵なんかも幾棟か建っていたりして、今考えると豪農か、昔、庄屋をやっていた旧家のお屋敷といった感じの佇まいです。
なんとなく古めかしくはありますが、かといって朽ちているような様子でもなく、敷地に雑草も生えていないし、誰もいない空き家という感じではありません。
「誰か住んでるんだよな……」
僕は、なぜだか無性にお屋敷の中へ入ってみたい気分になりました。
好奇心……というものだったのでしょうか? いつもはどちらかといえば内向的で、そんな大胆なことを絶対にするような子供ではなかったのですが、気づけば僕は門から飛び出し、まだ降りしきる夕立の中を母屋の玄関へと小走りに駆け寄っていました。
門から母屋までは小さな庭があるだけなのですぐに着きます。
玄関の引戸もなぜだか全開に開けられており、土間から続く上がり框を登った所には、目隠しをするかのように墨絵の龍が描かれた衝立がどっかりと置かれていて、なんだか時代劇に出てくる武家屋敷のような感じです。
「ごめんくださーい! どなたかいらっしゃいませんかー!?」
やはり僕にしては大胆な行動にも、その玄関の前に立った僕は大声で母屋の奥に呼びかけてみます。
「………………」
ですが、屋内はしん…と静まり返ったままで、僕の呼びかけには物音一つ返って来ません。
「留守なのかな? ……でも、そんなことないような……」
しかし、母屋の中を満たす空気からは何者かがいるような気配が伝わってきていて、なんと言うか……うまく表現できないのだけれども、留守宅のようにも思えないんです。
「ごめんくださーい! ……しつれいしますよ~……」
これまた今考えても、なぜそんなことをしたのか自分でもわからないのですが、無遠慮にも僕は靴を脱ぐと、その玄関を勝手に上がっていきました。
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