雨宿り

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 玄関を上がって衝立の裏へ回り込むと、やはり時代劇にでも出てきそうな、左右にずらりと襖の並ぶ薄暗い廊下が、真っ直ぐ奥の方へと続いています。 「………………」  許可なく僕がお邪魔しても、相変わらずお屋敷の中は静まり返っています……。  いや、外で降りしきる夕立のザァザァ…いう音に包み込まれ、屋内の静寂がなおいっそう強調されているように感じられます。  そんな、静かで湿っぽく、ひんやりとした空気に満たされた長い廊下を、僕は何かに誘われるようにして、さらに奥へと入って行きました。  それは長い長い永遠にも思える時間だったようにも感じましたし、ほんのわずかな間の出来事だったようにも思えます。  やがてその廊下の最奥へとたどり着くと、そこには戸ではなく御簾(みす)がかけられていました。あの細い竹をいくつも束ねて作られたような、言わば和風ブラインドのようなものです。  僕は、なぜだか無性にその御簾を上げて、その向こう側を覗きたい気持ちに捉われました。  気持ちというより、衝動に駆られたといった方がいいのでしょうか? 気づくと僕は御簾の下端に手をかけ、ゆっくりとそれをたくし上げています。  その向こうを覗きみると、そこは畳敷きの暗い大広間のようになっていたのですが……。 「……!」  その大広間の一番奥まった場所に、白い着物を纏った美しい女性が一人、ちょこんと座っていたのです。  そこは、他の床よりも一段高くなっていて、背後には床の間があり、イメージ的にいうのならば、やっぱり時代劇でお殿様が座っている所みたいな感じです。  その一段高い場所には左右一対の燭台が置かれ、ぼんやりとした仄かな蝋燭の灯りが白い着物の女性を薄闇に映し出しています。  彼女の着る白い着物はよく見る振袖(ふりそで)留袖(とめそで)のようなものではなく、例えるならば平安貴族のお姫様が着ているカラフルな十二単(じゅうにひとえ)を、脱色して白一色にしてしまったかのような、そんな感じです。
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