雨宿り

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 まだ挨拶もしていないし、勝手に家へ上がり込んで来たまったくの赤の他人の僕に、なぜそう親切にしてくれるのかわかりませんでしたが、特に怒ってるようでも、悪意を持っているようでもなく、むしろ彼女は歓迎してくれている様子です。 「………………」 「………………」  ですが、向こうから話しかけてくるようなことはなく、逆にこちらからも何を話していいのかわからなかったので、そうして僕はずっと黙ったまま、少々居心地の悪さを感じつつも女性としばらく向き合っていました。  この状況はなんとも居た堪れない……何か……何か話さなくちゃ……。 「あ、あのう……こ、ここにずっとお住まいなんで…」  長い沈黙に耐えられず、どうにかこうにか話題を捻り出し、僕の方から話しかけたその時です。 「…え?」  見つめていた女性の顔の下……顔同様に真っ白い首が、なんだかにゅっと伸びたような気がしたのです。  きっと何かの見間違いだろうと、僕は目をパチパチ何度か瞬きしてみました。 「……!?」  ですが、やはり気のせいではありませんでした。いや、気のせいどころか首は伸びるのをやめず、なおもぐんぐんと伸びていっているんです!  それはもう、僕が見上げなければならないくらいにまで伸び上がり、いまや彼女の頭は広間の高い天井に届きそうになっています。  その姿に、某ゲゲゲ(・・・)のアニメや図書館にある児童向けの妖怪辞典なんかで見た、お馴染みの妖怪〝ろくろ首〟が僕の脳裏に浮かびました。 「うわっ…!」  恐怖というより唖然として僕が見上げている内にも、その真っ白いつるつるとした長い首は天井近くで角度を変え、今度は真っ直ぐ僕の方へと向かってきます。 「……っ!」  そして、対照的に短い僕の首の周りにぐるっと巻き付くと、彼女の真っ白い顔が僕の頬のすぐ間近に迫ったのです。
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