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雨宿り
これは、僕がまだ小学生だった頃のお話です……。
小学五年生の春、両親が離婚し、母親の方についていくことになった僕は、母の実家のある一地方の田舎の村へ引っ越しました。
そこはまあ、言ってみればけっこうなレベルの田舎で、過疎化が進んでいて人口も少なく、村人の多くは農業に従事しており、まるで日本昔話に出てくるような、そんな長閑な田園風景の広がる山間の村でした。
都会育ちの僕には何から何までが別世界で、学校の同級生達とも遊び方がぜんぜん違うし、なかなかそこでの生活には馴染めずにいました。
そうして村の暮らしとも、村に住む人達とも打ち解けられぬまま春が過ぎ、初夏が来て、梅雨も明けて夏も盛りとなった辺りのことです。
夏休みも間近に迫ったその日、僕はいつものように田畑しか見えない夕方の田舎道を、学校から家へと一人で帰っていました。
と言っても、一人はいつものことです。
別に意地悪されたわけでもなく、皆、基本的には素朴でいい子達ばかりでしたが、僕自身が打ち解けられないのでなかなか親しい友達もできず、僕はいつも一人でした。
いつもと変わらない田舎道の、いつもと変わらない帰り道……。
でも、だだっ広い田地にこんもりと盛り上がった、まるで大海に浮かぶ島のような鬱蒼とした林の中を、突っ切るようにして貫く道にさしかかったその時でした。
「うわっ! 降ってきた!」
ゴロゴロ…と突然の雷鳴が鳴り響いたかと思うと、大粒の雨がポトリ、ポトリ…と降り始めたのです。
一つ、また一つ…と、みるみる雨粒はその数を倍々に増してゆき、時を置かずしてすぐに土砂降りの夕立になります。
林の中とはいえ、頭上を覆う木々の枝葉でもとても受け止めきれるような降りではありません。
そのくせ、その茂った枝葉でただでさえ薄暗い林の中は、よりいっそう暗さを増してなんだか不気味な感じです。
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