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  「あんた、今日は何をやったの?」  オフィスの廊下で、いつきは問い詰められた。同じ女子社員の制服を着た、同期の桐生愛だ。ベージュの制服がよく似合って、かわいい。 「何って、ボクは何もやってないよ。まだ仕事始まったばかりじゃん」 「いつきは天然だからな。自覚ないだけでしょ」  愛の光るピンクの唇から、毒舌が続く。 「女子のくせに、一人称が『ボク』って、おかしいでしょ」 「課長や上の人の前では使わないよ。それで何かあったの?」 「あんたの処の課長が、管理本部長に呼ばれて叱られていたよ。よく聞こえなかったけど、あんたの名前出てたから」 同じフロアにいるのに全然気づかなかった。桐生愛は早耳だ。新人研修の時からそうだった。そして、研修の時から、いつきに話しかけてくれて、昼ご飯も一緒に食べるようになった。見た目は大人しそうで、上からのウケは良さそうだ。愛みたいな器用な芸当が、いつきにはできない。羨ましい。苦労が少なくて、よさそうだ。  でも愛本人は、猫かぶるとストレス溜まる、と言っては、いつきのところで毒を吐いていく。 「あんた、覚悟しときさいよ」  きつそうな言葉の裏の気持ちがわかった。愛は心配して来てくれたんだ。いつきは、胸が暖かくなった。 「うん、ありがとう」 「それも、天然!」  愛は、あっかんべーをして、去っていった。
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