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上司の課長がいつきを呼んだのは、ほどなくだった。
「前橋くん、君は今朝、変わった格好で出社したそうだな」
課長は座ったまま、机の前に立っている、いつきをねめ上げる。
「変な恰好? してませんけど」
「じゃあ、どんな服装で来たか。言ってみろ」
「趣味を反映した、自分なりのファッションです」
「それが、ピンクのロングのかつらと、軍服みたいな黒のエナメルのジャケットとパンツか? そんな恰好で出社する社員がどこにいる?」
ここに。と言いたくなるのを、いつきは堪える。
「私服はロッカー室で、制服に着替えたんで、問題ないです」
「問題、大アリだ!」
ついに課長が叫んだ。
「コスプレした君が、ウチのビルに入るのは、世間の人が見てる! 変わった格好の社員がいると、当社の評判が下がる! わがアカツキ製薬は創業から七十年、業界トップ企業として地元の高い信用を得ている。その企業イメージが台無しだ。ちゃんと、ウチの社員としてふさわしい服装で出社しなさい」
不満そうな表情がでていたのだろう、課長はいつきに、わかったか、と念押しした。わかりました、と答えて、いつきは課長の前から離れた。舌打ちしたい気分だった。
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