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「あ」
妻の由利香が、キッチンで叫び声を上げた。
「いやだあ、どうしよう」
どたどたどた、とこちらに駆けてくるスリッパの音が半分覚醒していた彼の耳にも届いた。
―― まずい、死んだフリ死んだフリ。オレはすでに死んでいる。
「ねええ、パパぁ」
パパときた。
「タカさん」と呼ばれるよりも悪い兆候だ。
起きて起きて、と揺すぶられて、貴生はしかたなく目を開けた。
この世の終わりのような目を向けて、由利香が言った。
「パパ、コショーが切れちゃったの」
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