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「何食べようかなぁ。どうせなら、高級レストランがいいなぁ。もちろん、おじさんの奢りで」
有花め、人の話を聞いておらんな。
ワシは有花を300円ショップの近くの牛丼屋、す○家に連れて行った。
これからスーツや靴も買うのに、昼食代は安く済ませたいところだ。
「おじさん、好きや。私をす○家に連れてって。…って高級レストランじゃないの?!」
「当たり前だ。有花よ、スーツ上下の相場を知らんのか?」
「えー?!…うーん、1万円位?」
「安くて、上だけでそれくらいだ。後、下に襟の付いたシャツに、パンプスも履くとなると、数万円は掛かるだろう。高級レストランは、無事に就職が決まったら、連れて行ってやろう。その代わり途中で辞めるんじゃないぞ」
「ラジャー!おじさん!私、販売のお仕事頑張る」
テーブル席に向かい合わせで座ったワシらはソファー側にワシが座った事もあり、有花の大分膨らんだコンビニの袋を直ぐ隣に置いた。
「何にしよっかなぁ。この3種のチーズ丼とか良いなぁ。おじさんは?」
「ワシは牛丼の並盛りで良い。1番安いからな」
いざ金が底を尽きたり、夕方までに屋敷へ戻れそうになければ、田中に連絡して車で帰ると言う手も有るな。
「いや、やはり大盛りで」
「そう来なくっちゃ!」
有花は、どこか嬉しそうにそう言うと、店員を呼ぶベルを鳴らした。
「かしこまりました!」
厨房の方から店員の声が聞こえて程なく、伝票を片手に店員がやって来る。
「ご注文は?」
「3種のチーズ丼の並盛りと、牛丼大盛りを1つずつ!」
「ご注文は以上でお決まりですか?」
「うん!おじさんもいいでしょ?」
「うむ」
「では、ご注文を繰り返させていただきます。3種のチーズ丼の並盛りと、牛丼大盛りを1つずつで宜しいでしょうか?」
「はーい」
「では少々お待ちください」
店員は伝票控えを入れると厨房の方へ去っていく。
と、その時ワシは隣のテーブル席のソファー側に座っていた男が、有花が持ってたコンビニの袋に手を伸ばしたのに気付いた。
男が袋の取っ手を掴んだところで、ワシはその手を握る。
「お客人、その袋はこの子の物だが?」
男は舌打ちをすると、袋から手を離す。
ワシも手を離したところで、男は、そそくさと伝票の控えと自分の荷物を持ち、会計の方へ行った。
「おじさん、よく気付いたね」
「ワシ位の極道の頭になると解るのだよ。気配と言うものをな」
同じ極道でも下っ端は、やはり気配を感じ易い。
ワシ位の地位のヤクザになると、気配を消すことができるから、普段から外に出る時は気を張っているものだ。
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