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組長と少女
深夜の街角、繁華街に田中の運転する車で、ワシ…千夜権蔵は飲みに繰り出した。
先代が亡くなって数年…ワシも極道の組長と言う立場に大分慣れてきた。
田中は最近、新しく、さかづきを交わした極道の1員でまだ20代後半だ。
ワシは30代後半だから、10歳位の歳の差は有れど、田中の事は気に入っていた。
田中は良き理解者と言ったところか。
新入りながら、極道の世界を一生懸命、理解しようとする田中の言動はワシも好感が持てた。
行きつけのバーの手前で田中が車を止める。
「頭、それじゃあ自分は明け方、迎えに来ます」
「うむ、ご苦労だったな」
短く会話をし、ワシは車から降りた。
田中は車中から会釈すると、車で走り去っていく。
ワシはバーの出入り口のドアを開けた。
中に入ると、何やらいつもより騒々しいことに気付く。
声を辿り、視線を向けると…。
「離して!離してよ!」
「キミは、まだ未成年だろう?!お酒を飲ませる訳にはいかないんだよ!警察呼ぶぞ!」
1人の少女が、バーの店員に取り抑えられていた。
少女は確かにまだ未成年と言った顔立ちをしている。
何故、1人で酒を飲もうとしたのかは解らんが、店員の言っている事は理に叶っている。
他の客達も迷惑そうにチラチラ少女と店員のやり取りを見ていた。
ワシは少女と店員の元へ行くと言う。
「他の客人達の迷惑になるぞ。離してやっては、どうだ?」
「そうよ!このおじさんの言う通りよ!早く離してよ!」
おじさんと言う単語に内心凹んだが、未成年(見たところ10代後半位か?)の少女にとっては、そう見えるのだろう。
店員は少女を取り抑えたまま、ワシに言った。
「千夜の旦那?!し、しかし、離したら、この子は逃げます!」
「何、逃がせとは言ってない。ワシが、この子にオレンジジュースを奢ろう。それで手を打たんか?」
「奢り?!お酒じゃないのがアレだけど、とりあえず、やった!」
「しかし、時間も時間ですし…」
店員は困った様にワシを見る。
「何、未成年の少女が深夜に1人でバーで酒を飲もうとしたんだ。何か訳有りだろう。ここはワシに任せてくれんか?」
「千夜の旦那が、そう言うなら…」
店員が渋々、少女を離すと、彼女はワシの直ぐ後ろに隠れた。
「あっかんべー!」
肩越しに後ろを見ると、少女は先程まで自分を取り抑えていた店員に向かって舌を出す。
店員は面白くなさそうな顔で少女を睨んだがワシと目が合うと、そそくさとカウンター内に移動した。
「お嬢さん、カウンター席で良いか?」
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