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確かに一緒に乗っていたのに気付かなかったワシもワシだ。
ワシは、タジタジになっている男の手を、有花に代わって掴むと、丁度最寄り駅に着いた事も有り、3人で大勢の乗客と電車を降りた。
「す、済みません!もうしないので許してください!」
「おじさん、この人どうするの?」
「駅員に突き出したいところだが、警察沙汰にはしたくない。これでどうだ?」
ワシはそう言うと、掴んでいる男の手を思い切りひねる。
「アイタタタ!ご、ごめんなさい!勘弁してください!」
男は今にも泣きそうに顔を歪めて喚いた。
そんな男の様子に有花は、してやったり、といった表情だ。
「良い気味」
「次に、この子に手を出したら、もっと痛い目に遭わせてやるぞ」
「わ、解りました!」
男はワシが手を離すと人波の中に逃げて行く。
駅員が今頃になって騒ぎに気付いたのか、ワシらの方へやって来た。
「どうかしましたか?」
「いや何、この子に痴漢してた男性を少し懲らしめただけだ」
「駅員さん、気付くの遅ーい」
有花がワシの後ろから小声で言う。
「そう言う事でしたら今度からは駅員室に連れてきてください。本当に痴漢したのならば警察に連絡しなくてはいけませんから」
そう思ったから敢えて逃したのだが、ワシは表面上、頷いただけに留めた。
「そうしよう。では、ワシらも急ぐから、これで」
「はい、気を付けて行ってらっしゃいませ!」
駅員の声を背にワシらは駅の改札口へと向かう。
「おじさん、歩くの速い。はぐれちゃうから腕組も、腕」
屋敷にいる時も思ったが、有花は腕を組むのが好きらしい。
だが、恋人同士じゃあるまいし、そんなに腕ばっか組んでおれん。
「ほら、手。繋いでれば、はぐれんだろう」
「…まあ、手を繋ぐのも嫌いじゃないけど」
そう言うと、有花はワシが差し出した手を握った。
ワシらは切符で改札口を出る。
その時、不意に思った。
これから働くとして、有花にはICカードを作ってやった方が、その都度、切符を買うより便利かもしれん。
「有花、ICカードを作ってやるから、ちょっとこっちへ」
「いいよ、カードならチャージさえすれば持っているから」
「何故、その事も早く言わんのだ!」
「聞かれなかったからって、さっきも言ったでしょ?」
ぐぬぬ…このクソガキめ。
ワシは有花の言葉に又してもイラッときたがそこは大人として表面には出さずに言う。
「なら、さっさとチャージしてこんか」
「言われなくても、そうしますよーだ」
有花は減らず口を叩くとチャージ専用機の方へ歩いて行った。
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