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ハローワークにて
「販売と配達?!実際、お客さんと接する事ができるの?」
「はい。販売も何か有った時のために指導員が付いてますし、配達は、これもやはり指導員が車を運転してくれます」
「ベルセルクかぁ…他にも販売出来る事業所ってある?」
有花はかなり乗り気だ。
後ろ姿しか見えんが、声が生き生きと弾んでおる。
「区内では、ここだけですね。就労継続支援事業所と言うと、皆さん内職や軽作業を想像しがちですが、ここは学期的です。興味がお有りでしたら、パンフレットを差し上げます」
受付の女性はそう言うと、冊子らしきものを有花に手渡した。
「詳しくはこちらをご覧ください。初めての方は大体1人か保護者の方同伴で見学の予約をお電話で入れております。他にも販売ではありませんが、職業訓練学校や就労移行センターなどがございますので、それらの冊子も持ち帰って、何ヵ所か見学してみるのがお勧めです」
「ありがとー、おばさん」
「お、おば…ゴホン!見学してみて雇用契約を結びたくなったら、パンフレットにも載っていますが、面接の日時をお決めください。その時は、襟の付いたスーツと綺麗なパンプスを身に着けて行かれる事をお勧めします」
結構、要り用な物が増えたな。
「何かめんどくさ。直ぐにバイト出来る事業所は無いの?」
「お言葉ですが、お嬢さんの今の格好じゃカジュアル過ぎて面接で落とされる可能性大です。面接は、一般就労でもバイトでも必ず有ります。面接抜きで働ける場所は先ず無いことを肝に銘じてください」
「働くって大変なのね」
楽な仕事はないし、続けられるかも問題だが先ず職に就く為の前段階に、ワシも極道とは又違うカタギの世間の厳しさを垣間見た。
「引っ掛かったり、どこか解らなくて問題が発生した時は又、お越し下さい」
「はーい」
「こら、有花よ。礼儀正しくせんか。販売業に就きたいのだろう?」
「面接の時は気を付けるから大丈夫」
コンビニの袋に今貰ったパンフレットや資料を入れながら有花は席を立つ。
「ありがとうございます!…これで良い?」
有花は受付の女性に頭を下げてから、こっちを笑いながら見るが、ワシは一抹の不安を感じた。
どうせなら今日中に買い物は全て済ませたいところだ。
有花に大金を持たせるのに抵抗が有るワシは足りない分は自分の金で払おうと思っているからだ。
しかし、ハローワークを出たところで有花は言う。
「おじさん、お腹空いた。先にランチにしようよ」
「それは構わんが夕方には屋敷に戻れるように買い物を済ますのだぞ」
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