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「これで痴漢の件は帳消しね!」
有花め、まだ気にしていたのか。
「あれはワシにじゃなくて有花にだろうからだ。ワシが痴漢に遭ったら、触られる前に気付く」
「あはは!おじさん、面白ーい。私も気配感じること出来るかなぁ」
「今は無理でも鍛錬次第で出来るようになる。だが今は仕事に就くのを優先させないか」
「結局そうなるんだ?まあ、鍛錬も難しそうだから、別に良いけどねー」
そうこう話して暫く経つと店員がやって来た。
「こちら3種のチーズ丼の並盛りと、牛丼大盛りになります。…ごゆっくり、どうぞー」
先程とは違う店員だったが、量の多さでどっちがどっちを頼んだのか解ったのだろう。
3種のチーズ丼は有花の目の前に、牛丼大盛りはワシの前に置いていく。
「いっただっきまーす!」
「うむ、頂こう」
2人で箸をつけ始めると、さすがの有花も静かになった。
美味しいのは有花の表情を見てると解る。
有花は食べるのに夢中だ。
ワシは、見てるのを気付かれる前に、牛丼の大盛りを戴く事にする。
牛丼屋なんて滅多に入らないから、新鮮だ。
味の甘塩っぱさも丁度良く、ワシらは暫し無言のままそれぞれのメニューを堪能した。
ワシが2人分の支払いを済ませて店の外に出ると、有花は通りを挟んで直ぐ目の前の300円ショップを興味深げに見つめている。
「おじさん、次行くとこ、あのお店?」
「うむ、そうだ。中の商品は全部300円+消費税だが…って、コラ待たんか!」
有花は300円と聞いただけで、通りを渡ろうとする。
と、大きなトラックが走って来るのを見て、ワシは咄嗟に有花の腕を引き寄せた。
勢いで、有花の小さな身体は、ワシの胸の中に抱き寄せられた。
次の瞬間、トラックはスピードを落とす事もせずにワシらの目の前をえらいスピードで走り去っていく。
ワシが居なかったら、有花は跳ね飛ばされてた事だろう。
「よく左右も確認せずに危ないではないか!」
「道路は歩行者優先でしょ?!」
「バスや、今みたいな大きい車の直ぐ前は運転手には見えん!気を付けんか!」
「気を付けるから、腕離して!…恥ずかしいじゃない」
「ん?うむ、済まん」
抱き寄せられている形になっているのが恥ずかしいのだと解ったワシは有花の腕を離してやった。
「おじさんの身体、暖かいね」
有花は小声で、そう言うとワシから離れて今度は、きちんと左右確認する。
車の通る前にワシらは通りを渡って300円ショップに入った。
「うわー。300円ショップなんて初めて入ったけど、色々有るのねー」
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