組長と少女

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「でも、私、都外から来たし、帰っても私の居場所はどこにもない…」 有花は俯いたまま、そう呟くと身体をワシの腕の方に傾かせた。 「高校卒業したばかりだから、バイトも何もしてないし…」 普通は在学中に、進学なり就職なりするのだがな。 有花はワシの腕に寄り掛かったまま、疲れているのだろう。 静かになったと思ったら、スースーと気持ち良さそうに寝息をたて始めた。 ワシは店員が注いでくれたバーボンを口にする。 「どうするんですか?その子」 「明け方に迎えが来る。その時、一緒に連れ帰る。ワシも警察は訳有って嫌いなのでね」 ワシは有花が寄りかかってない方の腕を伸ばし、バーボンを口にした。 高校を卒業したばかりと言う事はまだ18歳か19歳か…。 酒飲み友達にするには、まだ早いな。 ワシは有花を起こさない様にしながら、バーボンをじっくり味わった。 明け方。 予告通り正確な時間に田中は姿を見せる。 「頭、迎えに来ました。…って、どうしたんです?その子」 「家出少女だ。甘ったれのな。屋敷に連れて行く。この街よりは安全だ」 「わ、解りやした」 その時、店の奥から店員が出て来た。 「千夜の旦那。警察に問い合わせてみたところ、その子の捜索願いは出てないそうです」 本当に家族に見捨てられてるのか、都外から捜索願いが出ているのを警察が把握してないのか。 どのみち、こうなった以上、連れて帰るしかあるまい。 ワシは有花を肩に担ぐと席を立つ。 「今夜の勘定だ。バーボンとオレンジジュースのな」 ワシはカウンターの上に金を置いた。 店員がお金を取りに来ながら言う。 「ありがとうございました。千夜の旦那、又来て下さいね」 「ああ。…帰るぞ、田中」 「はい!かしこまりやした」 外に出ると空はもう明るくなり始めていた。 車の後部座席に有花の身体を横たわらせてワシは助手席に座る。 田中共々、シートベルトを締めたところで車は発進した。 「しかし、頭も家出した女の子を屋敷に連れて行くとは、面倒見良いですなあ」 「問題は、これからどうするかだな」 高校を卒業したと言う事は勉強すれば大学、短大、専門学校に進学出来るし、就活も出来る筈だ。 後は、どう説得して家に帰すかだが、都外から来たとなると有花の持ち金は知らんが、決して安くはない筈。 車で送るとしても有花が素直に自分の住所を言うか否か。 アパートを借りさせるにも、未成年だから親の了承が要るだろう。 これは厄介事を抱えてしまったかもしれん。 「お袋に相談してみるか…」
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