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屋敷に車で到着した時だった。
「うーん!よく寝たあー!…って、ここ何処?」
どうやら有花が目を覚ましたらしい。
ワシは田中と共にシートベルトを外してから後部座席を振り返った。
「ワシの組の車の中だ。ワシは極道の組長なのだよ」
「田中と言いやす。初めまして」
「極道の組長ってヤクザの頭?!ゴンゾウおじさんとスキンヘッドのタナカさんね。私はおじさんから聞いてるかもしれないけど、橘有花。宜しくね!」
有花はワシ等の正体を知っても怖がる素振りがない。
「有花、宜しくではない。繁華街を彷徨くよりかは安全だから、連れてきたまで。家に帰る気は無さそうだな」
「当たり前でしょ!?帰る気があるならとっくに帰ってるわよ!」
やはり、八方塞がりか。
仕方なくワシは車のドアを開けながら言った。
「有花、会わせたい人がいる。付いてこい」
「会わせたい人?誰?」
「付いてくれば解る」
ワシは車を降りると後部座席へのドアを開ける。
「ふーん」
どこか解せないと言いたそうな表情を有花はしていたが、車からは素直に降りた。
「頭、あっしは車を車庫に入れてきやす」
「うむ、ご苦労。何かあれば又呼ぶから屋敷内で待機しておけ」
「かしこまりました」
ワシが助手席と後部座席へのドアを閉めると、田中は車庫の方へ車を走らせ去っていく。
田中が居なくなってから、ワシは有花の腕を掴むと離れの方へ歩き出した。
「歩きづらいよ、おじさん!ここまで来たら逃げないから、腕は離して!」
離れの近くまで有花を連れて行くと、彼女はそんな事を言う。
いちいちうるさいクソガキだが、ワシが腕を離してやると有花はワシの腕に手を伸ばしてきた。
「えへへ。腕組んだ方が好き!」
有花の嗜好はイマイチよく解らんが、側から見たら親子か、それとも…。
そこまで考えたところで離れのふすまの前に到着した。
すると。
「むっ?!こら、待たんか!」
事もあろうかワシがふすまをノックするより先に有花は腕組みを解き、ふすまを開ける。
「あらあら。可愛いお客人だこと」
中に居た初老の女性…ワシのお袋の声が聞こえてきた。
「こんにちは!…おじさんも早く中に入りなよ!」
「その前にノック位せんか」
「ふすまに穴が開いてもいいならねー」
「ああ言えばこう言う…口の減らんガキだ」
「おじさんもねー」
「可愛げの無い…」
「権蔵、この子の言う通りよ。早く中に入って、現状を説明してちょうだい」
お袋に中からそう言われ、ワシは有花との押し問答を止めて部屋に入る。
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