組長と少女

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「お袋、入るぞ」 今更だが一応一言断ってから入った。 お袋は立ち上がって有花の手を取る。 「貴女、お名前は?」 「橘有花よ。おばさんはゴンゾウおじさんのお母さん?」 「よく解ったわね、有花ちゃん。立ち話も何だから、2人共こっち来て座って」 お袋は、ワシと有花を、普段からお袋の座っている、ローテーブルを挟んだ向かいに座らせて、自分はいつも座っている正面に座った。 テーブル越しに向かい合わせになる形だ。 「それで、権蔵。有花ちゃんに関する話があるんじゃないのかしら?」 まあ朝っぱらから、知らない少女を連れて来れば、そう思われても仕方ないし、現にその通りだ。 ワシは何から話そうか少し考えた後、重い口を開く。 「有花さんは家出中の身で、繁華街のバーで泥酔死しようとしてた。まあ、本気じゃなかった様だが、家にはテコでも帰りたくなさそうなのだ」 「有花ちゃん、何か有ったのね」 「ゴンゾウおじさんには少し喋ったんだけど、私が物心ついたのは4歳の幼稚園児の頃だったの」 お袋の優しい表情優しい声音に有花は少し安心したのか、昨夜より落ち着いた感じで話し始めた。 ワシは黙って聞く事にする。 「幼稚園では他の子達は皆、お母さんが迎えに来てくれたけど、私のお母さんは家に鍵かけて弟と昼寝してたから…私は毎日のように近くの公園で1人で遊んで時間を潰してた」 母親が鍵かけて弟と昼寝…ワシは有花が言っていた、弟さえいれば良いって言葉を思い出した。 「時計持ってなかったから、暗くなるまで公園に居たんだけど、夏は身体中、蚊に刺されるし、冬は霜焼けになるし、居心地は良いとは言えなかった。おまけに帰りが遅くなると夜でもお母さん鍵開けてくれなかったし」 邪魔な子と有花が自らそう言った経緯には、そんな過去があったのか。 4歳の頃に、親からそんな扱いを受けたら、そう思い込んでも仕方ないのかもしれない。 有花の話は続く。 お袋も有花の話に頷きながら、静かに聞いていた。 「ノドが乾いた時は公園の水飲み場で水飲んだ。お腹が空いて仕方なかったから、いけないって思ったけど、近くの小さなお店でアンパン万引きしたりして…店員さんのおばさんとその時目が合ったけど、おばさんは見なかったことにしてくれた…」 アンパン万引きの裏にはそんな事情が有ったのか。 「小学生になっても、そんな生活は変わらなかった。そして中1の時、私は夜の公園で不良達にまわされた。話せるようになるまで4年かかった」
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