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こんなよい月を一人で見て寝る(尾崎放哉)
「こんなよい月を一人で見て寝る(尾崎放哉)」
「てめえら、マキとツトムをいじめてんじゃねぇ!」
ギャン泣きしているマキとツトムを庇って、オレは立ちふさがった。
相手は5年生3人だけど、全然怖くねぇ。
マキをこんなに泣かせて、それが何より許せなかった。
――。
「ごめん、ガクちゃん、いたい、いたいよね」
殴られた頬を腕で拭ったら、涙目になるほど染みたけれど、無理やりニカッと笑ってみせる。
「いたかねーよ、こんくれー」
オレもボロボロだけど、相手も同じぐらい殴ってやったから、こんなのへっちゃらだ。
するとマキは、
「ガクちゃん、ありがと、ありがと」
ボロボロ泣きながらだけど、でもやっと笑ってくれた。
オレはホッとして、今度は腕の中に小さな仔犬を抱えて、まだ青い顔をしているツトムに手を貸して立たせてやる。
「ホラおまえも、もうヘーキだろ」
「ありがとガクちゃん」
素直にオレの手を借りて立ち上がりながら、ツトムは、
「ガクちゃんはすごいね」
尊敬の眼差しでオレのことを見つめてくれる。
「3年生なのに、5年生に立ち向かっていくなんてすごいよ!」
オレは心底誇らしくて胸を張った。
「またいじめられたらオレにいえ。いつだってたすけてやるからさ」
同じ年のマキは小さくてトロいし、ツトムは気が弱い。
ボーッとしているふたりにイライラしたこともあるが、でもふたりとも、いじめられている犬を放っておけない優しいやつだ。
仕方ねぇから、オレがついててやる。
オレがちゃんと見ていてやらなくちゃ、ふたりとも何にも出来ねぇ。
だからいつだって、オレがふたりを守ってやらなくちゃならねぇんだ。
そんな風に誓った小学校時代を過ごして、それから、3人まとめて中学校にあがった。
頭のいいツトムは私立を受験するなんてウワサもあったが、結局オレと同じ地元の中学校だ。
マキとオレは同じクラスで、ツトムだけ離れた。
ツトムは少し寂しそうだったけれど、でもオレはオレで新しいトモダチも出来て、そんなことあっという間に忘れてしまった。
マキやツトムと一緒に過ごす時間は減ったけれど、近所で幼なじみという関係は変わらない。
会おうと思えば、いつでも会える。
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