こんなよい月を一人で見て寝る(尾崎放哉)

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その日の放課後、オレはマキを探して生徒会室へ向かった。 意を決してドアをノックすると、開けてくれたのは、 「なんだ、ガクちゃんじゃないか。どうしたの」 ツトムだ。 オレはこっそり室内を伺いながら、 「マキは来てるか?」 マキは生徒会役員でもないのに、ツトムに付き合って生徒会室に出入りしていることを、オレは知っていた。 「マキちゃん? 多分図書室じゃないかな」 ツトムはキョトンとした顔で教えてくれる。 そうか、生徒会室にはいないのか。 オレはホッとする。 それにしてもツトムのヤツはのんきだ。 もしかしたら生徒会長がマキを好きなこと、知らないのかもしれない。 ツトムは、 「ねぇガクちゃん。もしかして迎えに来てくれたの? じゃあ今日はボクたちと一緒に帰れるの?」 そう、それにツトムは、登下校をいまだマキと一緒にしている。 小学校の集団登下校じゃあるまいし、いい加減面倒くさいと、オレだけさっさと離脱しちまったが、でもツトムは、 「だってタロウの散歩にマキちゃんと行くからね。それはタロウを飼うときの約束だからって、マキちゃん毎日家に迎えに来るんだよ。 だから帰りの時間は合わせた方が何かと都合がいいんだ」 タロウとは、ガキの頃、マキとツトムが悪ガキから救った犬だ。 結局あの後、ツトムが家で飼うことになった。 オレの顔を見るとうなり声をあげるバカ犬だけど、マキはそんなタロウを拾ったことに、ちゃんと責任を取ろうとしている。 それを思い出して、オレはなんとなく息をついた。 「そっか、マキはタロウのサンポか」 だって、登下校もツトムと一緒で、おまけに放課後はタロウの世話となれば、マキに生徒会長と付き合ってるヒマはない。 「そっか」 取り越し苦労だったのかと胸をなで下ろしていると、 「何なの? 今日は変なガクちゃんだね」 ツトムは可笑しそうに笑った。 が、その時、 「横川くん、ちょっといいかい?」 ツトムを呼ぶ声。 ウワサの生徒会長だ。 背伸びして覗き込めば、分厚い資料を抱えたそいつとバチッと目があった。 生徒会長はオレを見ると、ゆったりと微笑んで、 「宮中くんだね。横川くんや小泉くんから聞いてるよ」 どんなウワサだよ! 気にはなったが、もちろんそんなこと聞けるわけもなく、 「オレ、マキと先に帰るわ」 「えっ、ガクちゃん急にどうしたんだよ。待っててくれるんじゃないの」 文句を言うツトムに、オレはイーッと歯をむきだしてやった。 「ヤダよ。おまえが来るまで、バカ犬からかって遊んでるわ」 「そんなことするから、ガクちゃんはタロウに嫌われるんだよ」 足早に生徒会室を後にした。 あんなヤツに、ぜってー負けねぇ。
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