かけおち、ごっこ

12/22
前へ
/22ページ
次へ
 車から降りた三人は、事務所の人間に志信と都が、ここを訪れたかたずねる。 「いや、見てないね。それに、最後の便は一時間前だ。他の営業所も似たりよったりだろうよ。だから、その子たちが島の外へ出たとは考えられないねぇ」 「そうですか」  がっくりと、肩を落とす由子。初老の職員が、三人分の粗茶を出す。 「まぁ、少し休んでいきなさい」  労いの言葉を受け、十分だけ、と、三人は各々湯飲みに手を伸ばし、一息つく。  時計は夜の九時近い。既に志信と都の失踪が生徒たちに報告されているだろう。学級委員の由子が、担任と副担任と共に、二人の行方を追いかけていることも。 「よかったら、その辺を歩いてみなされ。時折、仏さんが流れつくから」  職員の言葉に悪気はないのだろうが、三人は黙り込んでしまう。最悪の可能性を示唆されたから。  ……都が、津川君と心中するなんて、考えたくないよ。 「朝になっても見つからないようなら、警察に通報しましょう」  田辺が、溜め息をつく。犬山も首を縦に振る。由子も、反論する気力がない。重苦しい空気が、潮風と共に流れる。  状況は、絶望的だ。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加