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幻でもよかった。いつまでも、ノブと二人で一緒にいられるのなら、見知らぬ土地の離島で、一からやり直すことも、きっとできたんじゃないかって……
でも、それも、もう。叶わない。
「おしまいなの? あたしたち」
志信は、何も言わない。応えない。
「ねぇ、下手に優しいと、怒るよ?」
とっとと、お前なんかいらないと、突き放してよ。もう、充分だろ、って、言い捨ててよ。覚悟なら、できてるんだから。
道路の真ん中で、立ち止まったまま、俯いたままの都と志信。にらめっこでもするようにぴくりとも動かずに。
海の香りがまとわりつく。極彩色の花々が暗闇の合間で咲いている。白、黄色、赤……
「……きない」
氷が砕けたように突然、志信が、呻く。
「できない!」
聞いたこともない、志信の悲痛な叫び声。都が顔を上げる。突然、現れた光に割り込まれる。眩しすぎる車のランプ。見つめ合っていた二人の背後で、キキッとブレーキ音が響く。何事かと都、志信、振り返り。
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