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歩き疲れたのだろう、座席にすわり込み、五分としないうちに、都は眠りについてしまった。すやすやと無邪気に眠る都を見つめていると、これでよかったんだと思えるから不思議だ。
由子は、無言で都を見守っている志信の横顔を眺める。昔から変わらない、仏頂面なのに、都と付き合いだして、少しずつ、恰好よくなっている気が、する。
「……迷惑、おかけしました」
ぼそり、志信が口にする。謝罪の言葉。
「あとで反省文、書かせますからね」
田辺はそう言って、苦笑する。
「一発殴りたい気分だね……実際にはしないけどよ」
憮然とした表情の犬山。言葉を切って。
「でも、今じゃないと、思い切ったこと、できなかっただろうな」
車を運転しながら、犬山は続ける。まるで自分の若いころを思い出すように。
「俺だって、若いとき、バカみたいなことに本気になってたんだから……でもなぁ」
さすがに、駆け落ちはしてないぞ、と。
由子が失笑を漏らす。
「良かったわね、お咎めが少なくて」
「お前からその分怒られたけどな」
「別れ話、してた?」
「……なんだよ、急に」
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