かけおち、ごっこ

3/22
前へ
/22ページ
次へ
   * * *  チャンスは一度きり。夕方六時から七時までの自由行動。志信の左手を握りしめて、都は問う。 「本当に、いいの?」  不安そうな都を、志信は元気づける。 「いいよ」  都は背負いなおす。  小さなディパックに、ほんのちょっとのお金と、計り知れない可能性と勇気、たっぷりの愛情を込めて。  そして、志信の言葉に頷く。 「あたしも」  潮風が、制服姿のままの二人を導く。無謀な計画をした二人を。  初夏。陽は高いが、ゆっくり西へ傾きつつある夕刻。陽光に反射されたエメラルドグリーンの海はたゆたゆと、揺れる。 「じゃ、行こう」  緊張で汗ばむ手を握りしめたまま、歩きだす。一歩、また一歩。  その先にある、未来を求めて。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加