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「理由なら、あるわ」
「え」
田辺の言葉に、由子はいてもたってもいられなくなる。
「オイ、野々村?」
ロビーの椅子から立ち上がり、顔を上げ、二人の教師に向き合う。
「追いかけなきゃ……二人の行動を予測できなかった私の責任です。探してきます!」
慌てて靴に履きかえ、由子が玄関を飛び出す。
「待て、野々村!」
犬山の大声で、我に却ったのか、由子が振り向く。
「心配なのはわかる。だけど、一人で解決しようとするな」
「でも」
「五分、待て。今から車を出す。俺と田辺先生がついていく。いいな」
有無を言わさぬ口調で、犬山が告げる。それを見て、田辺が苦笑する。きょとんとしたまま由子は二人の教師を見つめる。
「二人の行方が心配なのは、あなただけではないのよ」
田辺の言葉が、苛立ちでささくれだった由子の心を、優しく包む。
「……すみません」
素直に詫びて、由子は犬山の運転する車に乗り込む。
追跡が、始まる。
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