かけおち、ごっこ

7/22
前へ
/22ページ
次へ
「……お前のこと」  今なら、真っ赤な顔も暗闇に紛れてわからない。だから、少しくらいクサイ言葉だって言える筈。 「都」  空元気なのはわかってる。バカみたいにはしゃいで、志信を喜ばせようと、一生懸命になっている都が、少し、切ない。 「無理してるだろ」 「してないよ」  都は月明かりの下で、笑顔を見せる。志信のために。不安そうな表情、一つ見せずに。 「あたしが、言ったんだよ」 「そうだな」  言い出しっぺは都だ。だけど、志信が都を追い詰めたのは事実。  どのくらい、歩いただろう。最初は、他のクラスメイトに不審がられないよう、国際通りの観光を楽しんだ。それから十五分くらいして、二人は北上しながら集団からこっそり抜け出し、西へ方向転換をした。  向かうのは泊港。「離れ島に続く船に乗ろう」、そう言ったのは都だ。どうせなら……彼女を喜ばせたい。  志信は、夢物語の続きを、口にする。 「宮古島に、行こう」 「どうして?」 「……どうして、って。お前と同じ名前だから」  ぼそりと伝えられた言葉に、都の身体、熱を帯びる。呆然とした都は、驚いた顔のままで、志信に反応する。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加