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「津川志信と三藤都……女の子の方は担当したことないからわからねぇが、津川なんて、地味で問題を起こすような奴じゃなかった筈だぞ」
運転席で唸る犬山に、助手席で押し黙る田辺。夜道は車の数も少ないので、すいすい進む。
後部座席に座った由子は、二人の姿を捕らえようと、窓を必死になって眺めている。
「そうね。津川君も三藤さんも普段は問題を起こすような生徒じゃないわ。だけど」
三十代後半の疲れ切った田辺の表情を見て由子は申し訳なくなる。
「二人は、仲が良すぎるから」
言いづらそうな田辺の言葉を、由子は冷静に繋げる。自分が嫉妬してしまう程に、二人は仲が良いから。
まるで、一心同体のよう。いつだって都は津川君のことを考えていて、津川君は、都のことしか想っていない。私が入り込む隙間はどこにもなかった。
二人がいつまでも幸せでいられればそれでいいとも思った。だって私は。
「あ、誰かいます。先生止めて!」
由子は思考を切り換えて、人影を指さす。男女の二人連れ。もしかしたら……
扉を開けて、由子は駆けだす。
「待って!」
「何?」
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