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かけおち、ごっこ
昼休み、お弁当を食べながら、片手で観光ガイドを広げる生徒たち。
「ねぇノブ、海行こう海」
「海なんかそのへん転がってるだろ」
「でも行きたい海ーぃ」
来週、夏休み直前に、修学旅行で沖縄に行くことになった二年生たちは、目の前に迫っている期末考査そっちのけで計画を練っている。その中でも目立つのは、一つの机を共有して、楽しそうに談笑しながら、頭を突き合わせている恋人同士の姿だろう。
二人を微笑ましく思いながら、野々村由子は親友、三藤都に声をかける。
「都ったら、津川君困らせちゃ駄目じゃないの」
「でものの、沖縄の海って特別だよねトクベツ」
由子は、丸眼鏡のフレームに触れながら、そうねぇと頷く。
「わかったよ、海行けばいいんだろ海」
二人の少女に見つめられた津川志信は、しおりのスケジュール欄にシャーペンで『海』と書き足す。
「自由行動、二人で過ごすのね?」
「うんっ」
心底嬉しそうに、都が笑う。それを見て、恥ずかしそうに志信が口を開く。
「しょーがねぇだろ」
ぶっきらぼうな、突き放した言葉は、今までロクに女の子と会話したことなかった彼なりの照れ隠しだ。
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