夏の罪

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「バイト、やめようかな」 ベランダに蚊取り線香を炊いて一緒にアメリカ煙草をふかしながら、わたしは言ってみた。 男が何も言わないのでその先を続けられずにいると、たっぷりと()をおいて 「やめてどうすんの」 という声が夜風に乗って耳に届いた。 「ふたりで在宅ワークでもしない?」 できるだけ軽い調子を心がけて、わたしは言った。 少し前から考えていたことだった。 穏やかに日々を紡ぎながらも、帰ってきたら男が消えているかもしれないという恐怖はいまだに毎晩わたしを襲うのだ。 自分をこの部屋に縛りつける正当な理由がほしかった。 また会話が途切れた。アメリカ煙草の紫煙だけが漂ってきた。 男がわたしに顔を向ける気配がしたのでそちらを見て、息を呑んだ。 びっくりするほど悲しげな表情をしていた。 わたしは、彼の地雷を踏んでしまったことを悟った。
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