夏の罪

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男の罪どころか本名も住所も国籍さえも知らなかったことが認められるまでに、数週間を要した。 突然やってきた男に勝手に住みつかれ、肉体関係を続けていたことについて、取調官はだんだん同情的になっていった。 わたしは、ちっともかわいそうなんかじゃないのに。 男が「彼女は何も事情を知らずに自分を置いてくれた、(かくま)ったつもりすらないはずだ」と供述していることの裏付けも取れたとして、わたしはようやく解放された。 秋風が意外な冷たさで頬を撫でた。 ひとりのワンルームは、ずいぶん広く感じられた。 甘いコーラのペットボトルとアメリカ煙草のヤニだけが、男の残したものだった。 警察が口にしていた男の名前のかけらを検索窓に打ちこむと、電子新聞の記事がいくつかヒットした。 もう脳内の情報をひとつも上書きしたくなくて、わたしはスマホをOFFにしてベッドに放り投げた。 男が使っていたベッドの右半分を空けたまま、眠れるだけ眠った。
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