夏の罪

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就職活動は難航していた。 わたしは面接官の好みそうなスーツを着、面接官の好みそうなメイクをして、黒いリクルートバッグを持って毎日家を出た。 デリヘルをやっていた時期の職歴は空白にせざるを得なかったからか、就職先はなかなか見つからなかった。 風の強い日だった。 それでも秋の長雨の貴重な晴れ間だったから、わたしは洗濯物をベランダに干して面接に出かけることにした。 衣類をハンガーにかけた上から洗濯ばさみできっちり固定してゆく。 ただ一着、黒いライブTシャツだけは、針金ハンガーにかけただけで物干しざおに吊るした。 容赦なく吹きつける風に洗濯物がひるがえるのを見つめながら、わたしは黒いTシャツが飛ばされてしまえばいいのにと願うように思った。 <おわり>
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