夏の罪

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男の前髪はほとんど目にかぶさっていて、でも隙間から覗く大きな目には生命力が宿っていた。 彼の着ているクリーム色のTシャツは、もしかしたらもっと鮮やかな黄色が色褪せたものかもしれなかった。 その袖から伸びる腕は男性にしては細いけれど、肌は浅黒く、硬そうな筋肉がついていた。 男の肩越しに、細い雨が降り始めていた。 いったんわたしに背を向けた男は、 「雨だ」 とつぶやき、また振り向いてわたしを見た。 こちらが何かを言うのを待っている顔だった。 「お茶でも飲んでいきます?」 ごく自然に言葉が出た。 インスタントコーヒーを飲んだあとすぐに、わたしたちはセックスした。 シャワーを浴びたあとまたセックスして、夜もわたしの作った簡単な夕飯を食べたあとセックスした。 「帰らなくて平気?」 情を通じた後ゆえにどうしても甘くなってしまう声で、わたしは訊いた。 久しぶりに他人の汗を吸ったシーツは、エアコンの風で冷えてひんやりしていた。 「平気」 男は言った。
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