夏の罪

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季節はめぐり夏の盛りとなっても、カンジと名乗る男は家にいた。 お互い髪が少しずつ伸び、男は少しだけ肉付きがよくなった。それでもまだまだ男性にしては腕も脚も細かった。 わたしが生理でセックスできない夜、映画が観たいと男が言った。 金曜ロードショーを撮りためた貧乏くさいDVDのコレクションを見せると、男は 「これ、観たことない」 と言って1本の韓国映画を選んだ。 じゃあそれ以外は観たことあるのか、と少し驚きながらわたしはDVDをデッキにセットした。 部屋を暗くして、タオルケットにくるまって、一緒に観た。 わたしは何度も観た作品だったので、バイトの疲れもあって途中で男の肩にもたれて寝てしまった。 目覚めたときにはもう終盤で、ヒロインと相手役の俳優が激しく口論していた。 闇の中で表情を変えることなく画面を凝視している男の横顔を、テレビの光が煌々(こうこう)と照らしていた。 わたしは男のペットボトルのコーラに手を伸ばして勝手に飲んだ。 炭酸は抜けきっており、べたついた甘さだけが舌に残った。 わたしが起きたことに気づいた男がちらりとこちらを見て、耳たぶを甘噛みしたとき、なぜだか無性に泣きたくなった。
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