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12.奸計
田口は保育園の最寄り駅である山手駅の改札が見える場所で、その時を待っていた。
帽子にマスク、この日のために買ったコートで変装している。やがてその時間は訪れた、卓海が改札を出て来る。身を潜めて戻ってくるのを待った、およそ10分後、卓海は夏希を連れて戻ってくる。ふたりが改札を抜け、階段を上り始めたのを確認してから田口も改札に入る。こんな時、交通系カードは便利だ。
下り方面へ向かい、ずいぶん前方まで歩いていく。あまり離れては卓海がどの駅で降りるわからない、せめて同じ車両に乗れる距離を保つ。
やがて来た電車に乗り込んだ、どこまで行くのか期待と不安で卓海の背中を見つめる。
わずかふたつ目の駅だった、夏希を抱きなおし電車を降りる卓海を追う。改札を抜けると卓海は夏希を歩かせた、夏希のスピードでは田口はかなりゆっくり後をつけることになる、周囲に怪しまれないよう、スマートフォンを見ながら歩いた。
陸橋を渡り、歩道を歩き、国道を抜けると目の前のマンションへ入っていく。
(ここかあ)
高台のマンションへ続くエレベーターがあるだけとは知らず、田口は笑顔でその建物を見上げた。記録にとスマートフォンで撮影もしておく。
笑いがこみあげるのを抑えるのに苦労していた。
☆
早朝から梨絵を幼稚園に預け、長男は勝手に学校に行けと伝えて田口は磯子駅で卓海が来るのを待っていた。
そんな事ができるのは夫が夜勤の時だけだ、しかも卓海が何時に園に着ているのかがわからない、先日も一度8時過ぎから待ったが卓海は来なかった、もっと早いのかと今日は朝の保育もお願いしての待ち伏せである。
30分ほど待った7時45分、ようやく愛しい人が現れた、夏希を抱き階段を降りて来る。
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