12.奸計

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引き戸は開いたままだ、せめて引き戸を締めてくれと華は切に願うが卓海の口上は止まらない。 「結婚が嫌でも、せめて一緒に暮らせたら嬉しい」 「──な、なにいってんの! そんなこと……っ」 卓海の背後でひそひそと話している保護者達の視線が、華には痛い。 (いや、待って、なんでそんな事、急に……こんなの……!) まるで公開処刑だと思えた、どう答えるのが正解なのだろう。 「そんな事いわれても、困る……っ」 「こほん」 わざとらしい咳払いをしたのは園長だ。華ははっとする。 「す、すみません、園長……っ、あの、藤原、その話はまた今度……!」 「岩堀先生、困りますね、それじゃ当園が結婚させないみたいじゃない」 「は?」 華があんぐりと口を開けると、園長はにこりと微笑む。 「うちは既婚の保育士も多くてきちんとフォローはしているつもりだけど、不安がありますか?」 「え? あ? いえ」 そんな話をしているつもりはない華は、返答に困る。 「毎日夏希ちゃんを連れて来るのも、すっかりそのつもりなのだと思ってました」 園長は芝居がかったため息をこぼす、それを聞いて背後の保護者達はざわめいた。 「ねえ、藤原さん? そう思うでしょ?」 園長の催促に、卓海は頷いてから華を見る。 「不謹慎だって思うか?」 その言葉に背後の保護者たちが頷く。 「でも華のそばならいたいと思ったんだ。答えは今すぐじゃなくていい、でも、妻の三回忌には、参列してほしいと思ってる」 「三回忌──」 それは夏希の誕生日の翌日──あと半年近くある。 「三回忌!?」 その声は背後で聞き耳を立てている保護者たちだ、途端にざわざわし始めるのを、華は顔を赤くしたり青くしたりして聞いている。
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