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1.再会
男は最愛の妻を亡くした。
結婚二年目、待望の娘が生まれた翌日に、子の命と引き換えるように妻は亡くなった。蝉時雨がうるさい夏のことだった。
男はたったひとりで愛娘を育てた。双方の両親の助けも借りてはいたが、妻の両親を頼るのは心苦しかった、娘を突如亡くした悲しみの深さは見ているだけで辛い。自分の親は頼ろうにも千葉に引っ越しをしてしまっている。それでもしばらくは母親が泊りがけで手伝ってくれたが、すでに子育てもリタイアした年齢の親には、手のかかる子供を預け続けるのは申し訳ない気持ちのほうが勝った。
仕事場の近くで保育園を探した、ようやく入園できたのは職場があるJR根岸線の関内駅より、ふたつ手前の山手駅にある保育園だった。
そして1年の育休と、妻の一周忌を終え、仕事に復帰する。
その初日──。
「はーい、おはようございます、藤原さんね」
あさひ保育園の園長の明るい声に藤原卓海は、頭を下げる。
「おはようございます、よろしくお願いします」
「はいはい、夏希ちゃん、いらっしゃーい」
手の差し出す園長から逃げるように、娘の夏希は卓海にしがみつく。
「夏希……」
別れ難かった、思わず抱きしめたが、
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