12.奸計

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「あ! 俺、華とは高校時代の同級生で! 昔馴染みなんでつい甘えが出てしまって。俺も職場に行く前に保育園に寄ってますけど、一回降りるのも面倒でしょう? だから華に頼んでピックアップしてもらってるんです、幸いあいつもうちは中間地点だからいいよっていってくれて」 「へえ」 素直に頷くが誤解は解けていないようだ。 「うーん、そうか、不倫とか言われてるのか、それは華に悪いな」 顎に指を当て考え込んだとき、卓海の腕にいる夏希が大きな声を上げた。 「はなせんせー!」 見れば玄関のガラスの引き戸の奥、ホールから出てきた華が廊下を横切って行くのが見えた。 「──そうか」 小さな決意を言葉にし、卓海は皆にすみませんと断り園舎に入る。 「華」 入るなり声をかけた、階段を上がりかけていた華はびくりと止まる。 「は、な、呼び捨て……っ」 しかも園長から写真の話は聞いている、金曜の夜から電話が鳴り続いたという、またか、どうしたと声を荒げる者もいたそうだ。 今回、園長は写真そのものは見ていないが、藤原親子と華が写っているとは教えられた。その件で今度保護者会を開くつもりだ、事情があっての送迎だときちんと説明しなくてはいうのだ。 そのことを伝えようと、卓海の姿を見た園長も玄関脇の事務所から出てきた。 「華、俺、お前にプロポーズする」 「は!?」 とびきり素っ頓狂は声が上がった。 「なにを言い出すかと思えば!」 華の叫びにホールから出てこようとしていた他の保育士の足が止まる、園長も驚きふたりの顔を見比べた。なにより卓海の背後にいる保護者達がぴたりと動きを止め注視している。
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