12.奸計

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「どうしても決心がつかないっていうなら、結婚はしないまでも、パートナーとかじゃどうかな」 「パートナー?」 「同棲? 内縁の妻とかいうやつ?」 「でも、それじゃあ……」 なんだか淋しい、と思ってしまう。 「まあ、お前に任せるよ。俺としてはお前といたいだけ」 「そんなの……」 華は夏希の髪に唇を押し当て考えてしまう。 お前といたい、そんな言葉が嬉しかった。自分もそうなのだと認めるしかない。 誰かをそばに置くのは怖いといった卓海の告白を受けたのだ、それは勇気の告白だったに違いない。 保育士という立場を気にして懸命に蓋をしていた気持ちだが、卓海がそれを望んでくれるのならば、自分も踏み出す勇気を──。 「──ありがとう。私、藤原と、結婚、したい」 華の小さな声に、卓海は椅子ごと近づき夏希と一緒に華を抱きしめた。 「ありがとう」 耳元でいう、華は小さくうなずいた。 「あ……一個だけ、お願いしていい?」 「何?」 「奥様の写真、全部片しちゃったでしょ」 「あー……」 片づけたのは事実だ、やはりうしろめたさはあったのか、千晶の笑顔と目が合うのが辛かった。 「ひとつだけでいいから、また飾って」 卓海が一番に愛しているのは千晶だと華は思う、その存在を消してはいけないし忘れてはいけない、そんな戒めの意味も込めてそれを望んだ。 そんな言葉に卓海は華の髪をそっと撫でる。
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