12.奸計

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「わかった──って、写真といえば、俺たちのあの写真は誰が撮ったんだろうな?」 「さあ。そもそも配ったのも誰なのかわからなくて。今回も園児の鞄から出たから、防犯カメラもチェックしたんだけど」 部外者の出入りは当然なかった。怪しいと思える動きをしている者は何人かいた、やたら滞在時間が長かったのは田口だが、決定的瞬間まではなかったのだ。 「できればお礼を言いたいよな」 「お礼?」 「すごくよく撮ってくれたし、あれ見た瞬間、やっぱお前がいいと思ったし。記念に欲しいな、誰かくれねえかな」 「あ、藤原は見たんだ?」 「ああ、華も夏希もかわいかった」 「んもう」 目の前で見ていたはずの光景なのに、写真として客観的にみると、華がとても幸せそうに微笑んでいるように見えた。こんな風に笑ってくれているなら──そんな気持ちが後押ししたのは間違いない。写真を見なければ告白はもっと後だったろう、そういつかは、華の身も心も手に入れたいと思っていたのだと確信したのだ。 「──華」 わずかに体を離した、首に左手をかけ固定し、右手は顎にかけやや持ち上げて顔を近づけるが、 「駄目」 華の鋭い声が響く。 「んだよ」 さすがに剣が混じって抵抗する。 「夏希ちゃんの前じゃ嫌」 言われて卓海は視線を落とす、すぐ目の前にある夏希の大きくキラキラした瞳と合った。 「夏希ぃっ」 卓海は甘えた声を上げ夏希を強く抱きしめる、夏希も嬉しそうに「きゃあ」と声を上げて抱きしめ返した。 「ほんと、親ばか」 いって夏希を卓海に渡す、卓海は素直に受け取り膝に座らせた。華は立ち上がりながらコップを引き寄せる、既に空になっている卓海のものと、母と祖母が飲んだものだ。
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