12.奸計

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それを持ちキッチンに入ると洗い始める。 「華ぁ、本当に今日から一緒に住んでもいいんだぜ?」 卓海は夏希を抱きしめながらいった。 「今日はいいよー。うーん、やっぱちゃんとご挨拶も終えてから」 「まあ、いつでもいいけど──ああ、部屋も少し片づけねぇとな」 千晶のものがある、華のものが置けるよう片付けなくては。 「──捨てたりしなくていいからね」 ぽつりといわれ、卓海も頷く。 「……段ボールでも買ってくる」 捨てようと思ったことはないが、手すら触れられなかった。これも機会だ、部屋の片隅にまとめておこう。 「さてっと、じゃあ帰るわ、また明日、駅で──」 濡れた手を拭いながらいうと、卓海が「えー」と声を上げる。 「飯くらい食ってけよ、礼子さんのご飯、あるぞ」 「え、それは藤原と夏希ちゃんの分でしょ」 「別に大丈夫だ、なあ夏希も、一緒にご飯食べたいよな?」 「うん!」 夏希の嬉しそうな声に華は笑顔になっていた、じゃあいただくね、と食事の支度を始める。 もっとも白米は朝炊かれた分があり、礼子が作ったおかずを並べるだけだが。 (これからは、私が作るのか) ふたりにおいしいといってもらえるご飯を──そう思うとにわかに心が浮かれ出す。そんな未来は望んでいけないと思っていたのに。
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