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13.門出
サイドボードに華と卓海と夏希が並んだ写真が飾られたのは、それから2週間後のこと。
朝、一緒に電車で職場へ向かうのは今までと同じだが、違うのは同じ玄関から家を出ることと、卓海がずっと華の腰に腕を回していること、そして別れ際にこめかみにキスとすることだ。
恥ずかしくも華の心は満たされてしまう、そして駅に着くと夏希の手を引き電車を降りる。
「ママー」
夏希がかわいい声で呼ぶ。
「ん、もう『華先生』だよ?」
「はーい、ママ」
まあいいか、と思ってしまう。どうせもう皆が知っていることだ。
園に向かうと、園舎の前に車が止まった、助手席のドアが開き降りた男は0歳児クラスの父だとわかる、その腕に赤ん坊がいて華は驚いた。ベビーシートも使わずとは。
そして運転席の窓が開き、田口が破願して華を見る。
「あら、華先生、なっちゃん、おはよう!」
なぜ田口の車から他人が降りて来るのかと華の頭の中でグルグルと考えが巡る。そして男は後部座席のドアを開けた、そこから飛び出してきたのは梨絵である。
「ママ、いってきまーす!」
「はーい、いってらっしゃーい」
梨絵は男と手つなぎ園舎へ向かう、なぜだ、どうしてだという疑問は必死に胸の奥へしまう。
「──田口さん、親切ですね。他のクラスのお子さんまで送ってあげるとは」
「そうよ、私、いい人なのよ。そうしたら華先生みたく、いいことがあるかもしれないじゃない?」
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