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12 持たざる者の末路
翌朝。
朝食で顔を合わせた父と私は、爽やかな笑顔を交わした。
「よく眠れたかい?」
「はい」
「少し話があるんだ」
穏やかな口調でありながら、含みのある言い方だった。
席に着くと父は言った。
「イヴォン伯爵から手紙が届いた。個人的なものだ」
「……え?」
チクリと、胸の奥に重い棘が刺さる。
「昨日はお前にとって祝福すべき日だったからね。夜が明けるのを待った」
「はい」
声が掠れる。
父は静かに食事を始めた。
極めて些細な事であるかのように、振舞っているようだった。
「クライヴ伯爵は例の訓練校に姿を現し、妻の母親を引き取る代わりに、入所に際して支払われた子爵の寄付金を全額渡すよう要求したそうだ。元は自分が受け取るはずだったものだと主張し、派手に揉めたらしい」
「……」
「それがイヴォン伯爵の耳に入り、伯爵主導で調査を行った結果、どうやらあの男は偽名で土地の売買に手を染めて、多額の借金を抱えていた事実が明らかになった」
想像をはるかに超える深刻な事態に、私は呆然と父を見つめた。
「全てにおいて、私が甘かった。ラモーナ。すまなかった」
すぐに答えるには、適切な言葉が見つからない。
父は悲しそうな微笑みで私を一瞥し、また食事に目を落とした。
「イヴォン伯爵は恐喝、違法売買、詐欺等の罪であの男を告訴するそうだ。クライヴ伯爵家は破産を免れず、断絶するだろう」
「パンジーはどうなるの」
無責任な問いかけだった。私に口を出す権利はないのだ。
それに、なにかをどうにかする力もない。
でも、訊かずにはいられなかった。
「クライヴ伯爵夫人は既に修道院へ身を寄せているそうだよ」
「そう……なの。わかったわ」
ずっと持参金の事で責められ、きっと、辛い日々を送っていただろう。
あの子の行いそのものに対する負の感情より、極悪人の妻となったその境遇のほうが、よほど重大に思えた。だから既に修道院で暮らしているのだとしたら、彼女は、いちばん安全な場所に辿り着いたのだ。
もし私があのままクライヴ伯爵と結婚したとして、その悪事が白日の下に晒されたとしても、絶望する私を父は必ず助け出してくれたはずだ。私には帰る場所があった。
あの子には、なにもなかった。
「子爵は、どうされるかしら」
「わからない。でも、なにかあれば話してくれると思うよ。一度は家族になった間柄だからね」
父はついに手を止めて、真剣な眼差しで私を捉えた。
「生きていればそういう事もある。全て承知した上で、お前は幸せになりなさい」
私はまた、口を噤んだ。
言葉の重さを、もう大人として理解するべきなのだ。
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