番外編ー1 母の秘密、私の真実(※パンジー視点)

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番外編ー1 母の秘密、私の真実(※パンジー視点)

「お前みたいな馬鹿を愛する人間が本当にいると思うのか? 馬鹿だからわからないか。クソっ! 頭の足りないほうにすれば金を使いまくれると思ったのに! 金もない、知恵もない、使用人としてもなんの仕事もできやしない。豚以下だ! なんだその目は。ああ、そうだよ。愛していないさ! やっとわかったか? 僕は金を運んでくる馬鹿な奴隷を愛したかったんだよ! お前は僕を騙した。この罪は重いぞ!!」  結婚式から、ほんの2週間しか経っていない。  1週間頃にはもう、苛々し、冷たくあしらわれるようになっていた。 「ジェフリー……」  泣きながら手を伸ばす。  その手も、力いっぱい叩かれた。 「!」 「図々しく名を呼ぶんじゃない! 〝様〟をつけろ!」 「そんなっ」 「妻の役目も務まらない塵が! せめて床磨きでもして見せたらどうだ? ん? 使用人の真似もできないのか? 猿なのか? この薄汚い私生児が!」 「……」  あんなに優しかったのに。  あんなに、熱く愛を語ってくれたのに。  あんなに甘いキスを、たくさんしてくれたのに。 「ジェフリー……!」 「駄目か。馬鹿には通じないな」 「待って、ジェフリー!」  彼は部屋を出て行ってしまった。  立ち上がれず、泣き叫ぶ私を、残して。 「うわあぁぁぁぁぁぁんッ」  ずっと泣いていた。  どうしてこんな事になってしまったの?  私ばかり、どうしてこんな酷い目にあうの? 「……っく、えぐ」  でも、祖父の家で暮らしていた頃のほうが、まだましだった。  祖父はずっと冷たくて、私は愛を失いはしなかった。  祖父は私を殴らず、毎日ちゃんと食べさせてくれた。  祖父を悪魔だと思っていた。  いつか王子様が助けに来てくれると信じていた。  そして、あの人は現れた。  母を救ってくれた。  私を救ってくれた。  私はどんどん幸せになっているはずだった。   「お父様……!」  優しくしてくれた人。  あたたかな家庭、優しい姉を与えてくれた人。 「お父様……たすけて……っ!」  あの家に帰りたい。  物静かで優しい、たったひとりの姉に、会いたい。 「……っ」  姉はどうして、彼をくれたのだろう。    もしかして……こうなる事を……わかっていた……? 「……」  自分から父親を奪った私を、憎んでいたのだろうか。  あの静けさは、そういった恐い感情を溜めていく姿だったのだろうか。 「……っく」  そんな事は、思いたくないのに。    神様は意地悪だ。  私に優しい家族をくれなかった。  愛してくれる親をくれなかった。  そして突然与えて、突然壊した。   「うぅぅ……っ」  こんな事なら、生まれてきたくなかった。  私は生まれてこなければ、よかった。  ……死んでしまいたい。   「……」  窓を見ても、カーテンの紐を見ても、どうも勇気がわかない。  痛いのはもう嫌だ。  どうして彼は、私を殴るのだろう。  これが結婚なの?  私は幸せになったはずだったのに……
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