2 継母の痛々しい涙

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2 継母の痛々しい涙

「すまないね、ラモーナ。僕はパンジーを愛してしまったんだ」 「……」  パンジーの結婚準備が進む中で、彼が私に言った一言。  悪びれるわけでもなく、完全に事務的な報告だ。  優しくて大人のジェフリー卿が、私は好きだった。  結婚前にあからさまな好意を示すのはよくないと思っていたから、想いを隠し、ずっと礼儀正しく接していた。  今、パンジーは幸せを撒き散らしながら彼の腕にぶら下がっている。  そして…… 「まあ、お上手ですこと」 「いえいえ。本当ですよ。こんな愛らしいお嬢さんが生まれるわけだ」  継母はチラチラと私の顔色を確かめながら、得意気に笑う。  そしてジェフリー卿を、娘と同じような目つきで見あげている。 「……」  悲しくて、とにかく虚しい。  私は席を外す無礼を自分に許した。  部屋に篭って読書していると、少し集中できた。私は本を抱いて、自己憐憫に浸りかけ、もう涙が出てこないと気づいた。 「……嫌い」  そう。  私はもう、ジェフリー卿も、パンジーも、ドロレスも大嫌い。  それでいいのだ。  父は妹の結婚を急いだ。  ジェフリー卿は喜んで教会を手配し、婚約破棄からわずか40日後に式を挙げた。 「お姉様!」 「……」  家族として参列した、結婚式。  パンジーの投げたブーケを、私はわざと取り落とした。  そんなひねくれた自分にさえ、笑えるようになっていた。  そして結婚式の翌日。  父は継母ドロレスと離婚し、彼女を生家へ帰した。 「あなた!!」  馬車の中から、泣き喚く継母の姿を見つめる。  父が連れてきてくれたのは、私にこれを見せるため。わかっている。 「馬鹿者! お前は恩を仇で返したのだ!!」  年老いたブルックス子爵が、泣き崩れるドロレスの襟首を掴んで立ち上がらせる。 「お詫びしろ! ローガン伯爵にお詫びをするんだ!」 「ううううぅぅぅっ」  子供のように顔をくしゃくしゃにして泣いている。  父はそれを無視してブルックス子爵に短く挨拶すると、踵を返した。 「待って! あなた! ごめんなさいっ! お願い、待ってぇぇぇっ!」 「申し訳ございませんでした! 申し訳……申し訳ございませんでした!!」  ブルックス子爵が憐れでならない。  馬車に乗り込んできた父に、私は声をかけた。 「子爵は、悪くないのでしょう?」 「ああ。これで充分だ。あとは任せるさ」  父が励ますように、私の肩を叩いた。
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