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私は、祈り続けた。
神様、こんな私でごめんなさい。
神様、どうか、みんなを守ってください。幸せにしてください。
「……」
あるとき。
私は、いろいろな事がわかるようになった。
シスターたちが本心から私を支えてくれている事や、私がどれほど恥知らずな人間で、愚かで、優しく手を差し伸べてくれた人たちを酷く傷つけてしまったのか、自分の姿が見えるようになった。
私は祖父と……あの親切な善き人、ローガン伯爵に手紙を書いた。
シスターがきちんとした手紙の書き方を教えてくれた。
夏だった。
祖父が、会いに来てくれた。
「パンジー」
「お祖父様……」
久しぶりに見た祖父は、記憶の通りに、シワシワだった。
老人は年をとらないのだ。
だけど、祖父の目が、優しい気がした。
「パンジー、手紙をありがとう。お前に、伝えなければと思ったんだよ。生きているうちに直接」
そう祖父は前置きをして、言った。
「お前の母親は、よく、お前の祖母と一緒に、その故郷へ帰省していた。私は土地を離れる事は出来なかったから、自由にさせていた。そして、ある時、お前の母親は、お前を身籠って帰って来た」
「はい」
「お前の父親は水夫だ。婿入りさせようと手を尽くしたが、既に遅かった。雇い主の一家を襲い、囚われ、処刑されていた」
「……はい」
祖父は注意深く言葉を選んでいた。
そしてその姿を、私は、ずっと、見て育ったのだとわかるようになっていた。
胸が苦しい。
「だが、パンジー。お前の父親の罪は、お前自身の罪ではないのだ。それだけは確実に分けて考えなければいかん。わかるかい? お前は碌でもない親から生まれた子だが、極悪人の分身ではないのだ。極悪人に成り下がり、悪魔に魂を売り渡したのは、お前ではなく、お前の母親なんだ。私の……娘だ」
「……」
私は、母の事を祖父と話しあう心境にはどうしてもなれなかった。
「私は、妻も、娘も……お前も、愛する事ができなかったよ。だが、守ろうとしたんだ。しかし、守り切れなかった。私はできない事をやろうとしてしまったんだ。もっと早く、お前を、神様にお預けすればよかったな。すまなかった、パンジー」
祖父の目が潤んでいる。
私は泣かないように努力しながら、祖父に微笑んだ。
「いいえ」
私はまず、はっきりと、そう伝えた。
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