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「お祖父様が、私を愛せなかったのは……当然の事ですし、今はもう、お祖父様が、私を守ってくださっていた事がよくわかります。ありがとうございました」
「……!」
祖父が手を伸ばし、そして、触れずに骨ばった指を握り込む。
私に触りたくないのではなく、シスターになった私には親族であっても男性は触れない事が好ましいから、堪えてくれたのだ。
「お前は、優しい子だったのだな」
絞り出すように、祖父が言ってくれた。
私は笑みが零れた拍子に、涙も零してしまった。
私は首を振った。
「わかりません。だけど、神様の傍にいて、シスター・パンジーとして生きるなら、いつか……ほんの少しでも、奉仕をしたり、あの方のように、子供のお世話をしたりできる人間になれるかもしれません。誰かの役に立ちたいなんて、烏滸がましい事は思っていません。ただ、こんな私だけれど、どんな形であっても、神様が用いてくださったら……いいなって、思うのです」
「パンジー」
「お祖父様、どうか、お体を大切になさってください。お帰りも、たくさん休んで、御無理のないように、長い旅ですから安全を第一になさってください」
「パンジー……ありがとう」
「お祖父様の日々の安寧を、ずっと、お祈りしております」
シスターたちと共に、祖父を見送りに出る。
日の沈む前に、宿に辿り着いてもらわなければいけないから。
年老いた祖父の背中を見ていると、急に胸が締めつけられた。
もしかしたら、これが最後になるかもしれない。
頻繁に会える距離ではないのだし、これこそが、神様が与えてくださった奇跡なのかもしれない。本当に、そう思った。
馬車に乗り込む間際、私はもう一度、祖父に駆け寄り声をかけた。
「お祖父様」
「うん?」
手すりに捉まったまま振り向いた祖父と、目が合う。
寂しさが吹き飛びはしなかった。ただ、別のもので、覆われた。
くすぐったくて、あたたかくて。
私は、生まれて初めて、心から寛いで、祖父の顔を見つめた。
「私、今……初めて、お祖父様が愛してくださっている気がします」
祖父が目を細めて、そうだよ、と囁いた。
「私も……!」
涙が溢れる。
祖父は、今度は私の頭を撫でた。
誰も咎めなかった。
神様が、私たちを家族にしてくださった。その瞬間だったから。
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