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「あの可憐な肉体に恐るべき力を秘めています。まさに女性とは神の芸術ですね」
興奮している。
以前なにかの拍子で零していたが、この男は科学というものを、神の領域を一定まで解明する事が許された力だと認識しているようだった。
神になろうとも、神を否定しようともしない。
ふしぎな男だ。
「……」
最初の妻は病弱だった。
私は娘の人生を通して、神の存在を目の当たりにした気がする。
小箱に手を置き、収めた何通かの手紙に想いを馳せる。
交わる事のないはずだったラモーナとパンジーの人生が交わり、痛みを伴い、救済された。私も過ちを犯し、救われたひとりだ。
「彼女の目が覚まされたままでいるように、祈りましょう」
義理の息子が穏やかに言った。
私も、己の目が曇る事のないよう、祈る。
そのとき、わずかな沈黙が愛らしい叫びに破られた。
「メルヴィン、なにやってるの!? そんなところにお祖父様はいません!!」
「おや?」
廊下から、娘の声。
孫息子の高い声も、内容はわからないが聞こえてくる。
「義父さんを探してますよ」
義理の息子は、子煩悩でもあった。
最近は異国から見える星空を模した光る絵を暗い室内に映し出すという装置を発明して、3才のメルヴィンの知的好奇心を刺激し、男ふたりで燥いだらしい。
「お祖父様とお父様は男同士のお話をしているんです」
「ぼくも! ぼくも、はかせ!」
「メルヴィン!」
娘たちはもう扉の前まで来ていた。
私たちは声をあげて笑い、ともに扉を見つめて、それが開くのを待った。
「あっ、メルヴィン!」
「たあああぁぁっ!」
扉は開かれた。
1才のニコールを抱いた娘と、同じく1才のローレルを抱いたメイド長が、困り顔で肩を落としている。メルヴィンは父親似で、機転の利くわんぱく小僧だ。
ローレルが父親に抱えられ、喜んで笑った。
「おじいさま、はっけん!」
メルヴィンの小さな足が絨毯を踏みしめ、ぱっと開いた手が、高く高く、あげられる。私は席を立って小走りで彼に向かい、身を屈めた。
(終)
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