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……それからの事は随分と経った今でさえ思い出したくはない忌まわしい、いやおぞましい出来事だった。
あの道場でなにが起きたのか。
「楽しかったなあ」
月光に照らされた青白い顔が綻んだ。
「お前ときたら何が起きるのかもわからずに敵陣に踏み込んだ愚かな男だったに違いない。ええ、俺がどう思っていたのか教えてやろうか生島」
ー愛しかったのだよ。
亡霊が笑った。
愛しいが故なのだよ。
声音は優しい。縄の跡が残る首筋に、浮き出た喉仏が震えるのを生島はしかと見た。
嗚呼、身悶えなどするものか、おぞましい寸劇を見せられているような拷問の一時、忘れはしないのだ、けして消えはしない過去をどうして忘れることができようか。
折檻だ、と言って数人で木刀で襲われる。二、三人打ち据えた所で秋野が向かってくることに気が付く。この下種が、と唸って木刀を振り上げた瞬間に目に何か入る。
唐辛子の粉と小麦粉を混ぜたもの、を紙で包んでいたものを投げつけられたのだ、と思ってももう遅い。そのまま秋野が生島の足首をしたたかに打ちのめす。
たまらずに道場に転がる生島は手足を押さえつけられた。
「殺す気か」
見えにくい目で睨みつける生島の耳に、嘲笑が響く。
「これだから朴念仁はいけないのだ。痛めつける、というのは体を殴ったり叩いたりするだけだと思っていやがる」
「なんだと」
「玉枝は食い損ねたが……ちと筋張って美味そうではないが、お前でもよかろう」
正気なのか。唖然とするのは当然だ。生島は男らしい。秋野の方がよほど女のようだ。そして彼らの取り巻きもちっとも嫌な雰囲気ではない。
ただ、純粋に悪事を楽しんでいるようだった。血迷ったか。そう言って体をよじるがうまくない。
「まずは四つん這いだ。後ろから突いてやろう、犬の交尾だ。負け犬はな、強い大将に女のように犯されるのだぞ」
「よせ、やめろ」
「そう言ってやめるやつは、馬鹿だ」
秋野が近づいてくる。
道着の袴を剥ぎ取られ、褌を解かれる。四つん這いになった足は押さえつけられ、びくともしない。うう、うう、と唸る生島の首に解かれた褌が一重、二重と巻かれる。
そして、ぐん、と後ろへ引かれると首がしまる。思わずのけぞると、秋野がいいぞ、犬。と笑った。そう言いながら生島の尻に軟膏を塗る。遠慮なく指を突きこむと、生島はどうしようもなくなって、己は畜生だ、人間以下だ、というようなことを喚くと、これまた笑いの波が立つ。
「犬はお前だ、生島。手綱を引かれて散歩する犬畜生だ。俺が生涯飼ってやろう。そら、泣け、犬」
言うなり、生島の尻が割り開かれ、ぐぐっ、と男の物が生島の中に入ってきた。その痛みに思わず言葉を失った後、ほんとうの獣のように言葉にならない音が出た。痛い、痛い、生島が泣くと、そら犬、もっと息を吐け、俺の一物がそんなに旨いか。だがそんなに締め付けては腰を振ることも叶わないぞ、と言って尻を叩く。
「いたい、いたい、この野郎、抜け、抜けったら」
「何を言うか、これからだぞ、そら、そら、ぐぐっ、と奥まで押し込んで、抜くぞ。そして、そら!またえぐるぞ」
「いたい、いやだ、死んでしまう」
「ははは、どうせ死ぬなら極楽へ行け。仕方がないからお前の一物もしごいてやろう、俺はなんて優しい主人だろう」
「やめろ、鬼、外道、いたい、裂けてしまう」
「このまま散歩するか。どうだ、歩け」
そう言って秋野は腰を揺らしたまま、首に巻き付けた褌をまた、ぐんと引く。息が詰まりそうな生島が必死に犯されたまま必死に道場を這う。
笑い声が響いた。良い犬だぞ。舌なめずりをしながら秋野は言う。
「いい、気持ちさ。ほんとうにいい気持だ。お前の尻の穴の中は妖しく蠢いて、俺を離そうとはしてくれない、愛しい愛しいと、絡みついている。お前の心もそうなら、喜ばしいのになあ」
そして涙も枯れ果てるほどに加虐は続く。数人の男に強姦されつくすと、今度は余興だとばかりに口に男の一物を咥えさせられ、男の上に乗って自分で腰を揺らすようにと脅される。否だと言えば手綱を引かれる。腰を振りながら長唄を唄え、とも強要された。朦朧としながら、生島は応えるしかない。
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