勇者の礼儀

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「あのなあ……完璧なヤツなんて存在しないんだ。そうやって甘く見ていたら、取り返しのつかないことになるかもしれないんだ」 「取り返しがつかないことって?」 「例えばの話、魔物に捕らわれて犯され続けて、快楽を得られ続けないと気が狂う……なんてことが起きたらどうする? もう既に半分捕らわれているから、魔物を見たら無防備になるんじゃないのか?」  地図から目を離してグリオスはエルジュを見据える。  物心ついた頃から面倒を見てきた、四歳違いの幼なじみ。  血は繋がっていないが、常に一緒に居続けた仲。出来が良すぎて変人じみた弟みたいなもの。  真剣に心配していることを伝えたくて眼差しを強めるが、エルジュは軽やかな笑みを崩さない。 「心配してくれるんだ、嬉しいなあ。でも安心して。オレのはそういうのじゃないから」 「信じられるか。もしそうなら、毎度魔物の懐に飛び込もうとしない――」 「分かってないなあグリオスは。オレは何をされても効かないのに、アイツらはどうにかしようと身構えて準備してくるんだよ? なのに、強いからってその努力をすぐに一蹴するって可哀そうじゃない?」 「……は? 言っている意味が分からないんだが……」 「要は、そこにワナがあるならハマってあげて、ちゃんと努力した成果をオレにぶつけさせてから倒したいってこと。それがオレなりの礼儀なの」  
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