勇者の悪癖

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勇者の悪癖

「エルジュ! いい加減、人前での態度をわきまえろ! もういくつになったと思っている? 美貌と愛嬌で済まされる年齢は、もう越しているんだぞ!」  城を出て魔王の元へと向かうために街道を歩き始めた直後、グリオスはエルジュの隣に並んで説教を始める。  本気の怒声を浴びても、エルジュは委縮するどころかニヤニヤと笑う。 「へぇー、グリオスってオレのこと美人って思ってくれているんだ。うれしー」 「茶化すな! 二十一にもなって公私の区別が付けられないなんて、情けなくて愛想を尽かしてしまいそうだ」 「オレに愛想持ってくれてるの。んふふー……じゃあ今晩どう? なんでもしてあげるけど」  スッ、とエルジュのまつ毛がわずかに伏せ、色香を濃くしながらグリオスへ肩を押し付けてくる。  咄嗟にグリオスはエルジュを突き飛ばし、すかさず距離を取った。 「やめろ、俺に色目を使うな! お前が何をしても俺はなびかないからな。無駄なことはするな」  もし他の者ならば、美貌と強さに溢れたエルジュに言い寄られてしまうと、男女問わずに欲情を覚えて誘いに乗っただろう。  しかしグリオスは物心ついた頃からエルジュとともにいたせいか、彼の色香に免疫があった。どんな色仕掛けをしても誘惑に負けることはない。通常の状態ならば――。
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