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「そ……そんなっ、馬鹿な……ッ!!」
「あなたが彼を愛しているなんて知らなかったわ。ところで、聞きたいんだけど。なぜ私を死んだ事にしてまで、ガストンと結婚したの?」
「あなたには関係ないでしょう!?」
「私の妹が私を死んだ事にして、私の婚約者と結婚しちゃったもんだから。関係大ありなのよ」
「捨てられた惨めな女が、言掛りをつけて……! これは、強盗だわ!!」
妹が目を吊り上げて、扉を指差してまた叫んだ。
「今すぐ出ていきなさい!! 命令よ!!」
「マーシア」
「私は伯爵夫人よ!? あなたより偉いの!! 言う事を聞かないなら牢屋にぶち込んでやるから!!」
「……」
混乱して支離滅裂な主張をしているのか、そもそもが愚か者なのか。
我が妹ながら、見ていて嫌になってくる。
思わず額を抱えた。
そして溜息を零した。
「もう一度、聞くわね。なぜ、私の死を偽装して、私がなるはずだったソーンダイク伯爵夫人になったのかしら?」
「負け惜しみは惨めよ! シビル!!」
「なんでもいいけど、その理由があなたの処遇を決めるのよ」
「はい?」
理論的に話ができる相手ではない。
私は諦めて、机の上で指を組み、まっすぐに妹を見つめた。
「私が嫌いだから、私からなにもかも奪い取りたかったの?」
「……そうよ?」
なにを今更。
そんな感じで、妹はやはり、私を見下した様子で頷いた。
「そう。その話を、裁判官が信じてくれるよう、筋立てて説明しなさいね」
「裁判?」
ついに妹の顔が、白くなった。
昏倒する可能性も視野に入れ、私は椅子から腰をあげた。
「なによ……裁判って……」
「マーシア。単純な話よ。あなたは、やってはいけない事をやったの」
「婚約者を奪われたからって私を訴えたの!?」
「違うわ」
書架からモーリスの肩がはみ出て、顔もはみ出て、眼帯をしていない右目が冷たく、そして鋭く、妹の後頭部に狙いをつけている。
「私が調査を命じた」
「!?」
豪華なドレスを翻し、妹がふり向く。
彼も完全に姿を現す。
言葉を失っている妹の後頭部を眺めながら、私も机に手を付きながら前に出た。
今の段階では、妹が私を嫌っているという事と、妹が愚か者だという事しか判明していない。ただの愚か者だといいけど……。
「ソーンダイク伯爵夫人。イヴォン伯領まで、御同行を」
「……嫌よ……っ」
そう涙声で呟くと、妹は子供のように地団太を踏んで泣き叫び始めた。
「いやああぁぁっっ!」
「……」
たぶん、妹は、ただの愚か者なのだろう。
気分は悪いものの、私は安堵の溜息を零した。
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