9 愚かな伯爵夫人

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「そ……そんなっ、馬鹿な……ッ!!」 「あなたが彼を愛しているなんて知らなかったわ。ところで、聞きたいんだけど。なぜ私を死んだ事にしてまで、ガストンと結婚したの?」 「あなたには関係ないでしょう!?」 「私の妹が私を死んだ事にして、私の婚約者と結婚しちゃったもんだから。関係大ありなのよ」 「捨てられた惨めな女が、言掛りをつけて……! これは、強盗だわ!!」  妹が目を吊り上げて、扉を指差してまた叫んだ。 「今すぐ出ていきなさい!! 命令よ!!」 「マーシア」 「私は伯爵夫人よ!? あなたより偉いの!! 言う事を聞かないなら牢屋にぶち込んでやるから!!」 「……」  混乱して支離滅裂な主張をしているのか、そもそもが愚か者なのか。  我が妹ながら、見ていて嫌になってくる。  思わず額を抱えた。  そして溜息を零した。 「もう一度、聞くわね。なぜ、私の死を偽装して、私がなるはずだったソーンダイク伯爵夫人になったのかしら?」 「負け惜しみは惨めよ! シビル!!」 「なんでもいいけど、その理由があなたの処遇を決めるのよ」 「はい?」  理論的に話ができる相手ではない。  私は諦めて、机の上で指を組み、まっすぐに妹を見つめた。 「私が嫌いだから、私からなにもかも奪い取りたかったの?」 「……そうよ?」  なにを今更。  そんな感じで、妹はやはり、私を見下した様子で頷いた。 「そう。その話を、裁判官が信じてくれるよう、筋立てて説明しなさいね」 「裁判?」  ついに妹の顔が、白くなった。  昏倒する可能性も視野に入れ、私は椅子から腰をあげた。 「なによ……裁判って……」 「マーシア。単純な話よ。あなたは、やってはいけない事をやったの」 「婚約者を奪われたからって私を訴えたの!?」 「違うわ」  書架からモーリスの肩がはみ出て、顔もはみ出て、眼帯をしていない右目が冷たく、そして鋭く、妹の後頭部に狙いをつけている。 「私が調査を命じた」 「!?」  豪華なドレスを翻し、妹がふり向く。  彼も完全に姿を現す。  言葉を失っている妹の後頭部を眺めながら、私も机に手を付きながら前に出た。  今の段階では、妹が私を嫌っているという事と、妹が愚か者だという事しか判明していない。ただの愚か者だといいけど……。 「ソーンダイク伯爵夫人。イヴォン伯領まで、御同行を」 「……嫌よ……っ」  そう涙声で呟くと、妹は子供のように地団太を踏んで泣き叫び始めた。 「いやああぁぁっっ!」 「……」  たぶん、妹は、ただの愚か者なのだろう。  気分は悪いものの、私は安堵の溜息を零した。
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