10 そっくり姉妹(※モーリス視点)

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10 そっくり姉妹(※モーリス視点)

 本当にそっくりな姉妹だ。  外見と声だけなら、まるで双子。  ソーンダイク伯爵夫人は幼子のように癇癪を起しているが、忌々しさと同時に物珍しさが禁じ得ない。シビルそっくりな顔と声で、なんという醜態……  しかし姉に妹の真似はできても、妹に姉のふりは難しそうだ。     「連行させて頂いたほうが、よさそうかな?」 「待って!」  泣き顔は悔しさに歪み、その顔で見つめられると居た堪れなくなる。  だが、知性的で凛としたシビルの美しい姿が視界に収まっているとあれば、迷いはない。 「誤解よ! 私、罪に問われるような事はやっていないわ!」 「それこそが誤解だ」 「姉から男を奪ったら逮捕されるの!?」 「論点がずれている」 「はあっ!?」    妹のほうには、なにをどう話せば伝わるのか、それだけが心配だ。  わからせてから捕えなければ意味がない。 「はっきり言おう。あなたには国家反逆罪の嫌疑がかけられた」 「はあっ!? なんですって!?」  濡れた目で激高する顔には、思うところもあるが、油断はできない。  愚か者を装う、姉の遥か上をいく賢くて狡猾な悪女かもしれない。 「あれは姉であって国じゃないわよ!?」 「……」  やはり、ただの愚か者なのか。  シビルが額を押さえ、溜息を吐いた。  咳払いで仕切り直す。 「あなたは姉君によく似ている。あなたは姉君の死を偽装した。そしてあなたは、姉君がなるはずだったソーンダイク伯爵夫人となった。あなたはシビル・ラヴィルニーを装う事ができる」 「だから?」 「あなたは軍人を蔑んでいるようだが、国の重要な任務に着いている」 「本棚に隠れて盗み聞きするとか?」 「なにを盗聴するかによるだろう。重ねて言うが、あなたには国家反逆罪の嫌疑がかけられている。あなたが死を偽装した姉君とふたりきりでどんな会話をするのか、それを隠れて盗み聞く事を調査という。或いは警護」 「随分とご執心ね。ご自分が牢屋に入ったら? 人の婚約者を奪ったら反逆罪なんでしょ? あなた、戦場でお気に入りの看護婦が見つかってさぞ楽しかったでしょうね。ああ汚らわしい! でも、その看護婦には婚約者がいたのよ!」  声を荒げる妹に食って掛かろうとしたシビルを手で制し、話を続けた。 「どうしても略奪婚に話を向けたいようだが、死を偽装した件と切り離して扱う事はできない」 「自分の女がコケにされて悔しいのね」 「あなたにどう邪推されようとかまわないが、あなたは理解するべきだ」 「ああ。家族を捨てて戦地に赴いた姉が、婚約者を裏切って男を作って半分死んで帰って来たのに、はじめに裏切った姉の婚約者の愛を奪った私が逆恨みされてるって事?」 「違う」  愚か者の珍妙な理屈に翻弄されてはいけない。  邪悪な人間のほうがまだましだ。馬鹿とは話が噛み合わない。  どうしてそっくりなんだ! 「あなたの認識はすべて間違っているという事だ。ソーンダイク伯爵夫人」 「はい?」  顔にも態度にも出さない自信はあるが、相手がシビルと似ているだけに、言葉にし難い焦燥感が胸の中で渦巻いて暴れている。  ソーンダイク伯爵ガストン・ドゥプラが言い包められたのも無理はない……などという事まで考えてしまった。  この女は質が悪い。
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