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「なに!? 諜報員!? 私を悪者に仕立て上げて処刑しようって言うの!? あんな女の言う事を信じないで! 私は妹なのよ!? どうしてこんな酷い仕打ちができるのッ!?」
「……」
国家反逆などと大それた事はできなくても、国家が痛手を食う失態をやらかしそうな人間性である事は間違いない。
やはり裁判ではっきりさせよう。
反省させたほうが、本人のためだ。
「彼女のせいにするのは筋違いだ。あなたは、疑われて当然の事を、悪質な方法を用いて行った。無実なら伯爵夫人らしく身の潔白を証明すればいい。だが忘れてはならない。あなたは実際に死を偽装し、結婚した。この事実そのものが倫理的にも重罪だ。今からじっくり身の振り方を考える事をおすすめする」
「私は無実よ! だってシビルは死ななかったもの!!」
私はその言葉を聞き逃さなかった。
これまでずっと、重症のシビルが死んだと偽ったという前提で話をしてきた。だが、もしかすると、事態は国家反逆罪並に重いのではないだろうか。
死にそうだったが、死ななかった。
殺そうとしたが、死ななかった。
どちらとも取れる。
偽装しようとしていたのは、死ではなく、死因のほうだとしたら……
愚か者の悪意ほど、醜く、馬鹿らしく、始末に負えないものはない。
犯した本人が事の重大さに気づけるなどという期待は、到底できないのだから。
「なにを盛った?」
「え?」
私の問いに、シビルが短く問い返してきた。
彼女にまで追い打ちをかける事になるが、ここで片付けなければならない。
シビルの妹マーシアは、そっくりな顔で姉を指差して泣き叫んだ。
「薬棚にあった薬よ! ずっと死ねばいいと思ってきた! それが死んだような感じで帰って来たの! もう目覚めなければいいと思った! 眠り続ければいい……そのまま、死んだっていい!! そう思ったわよ! でもあれは勝手に起きたの! だから私は偽装なんてしてない!! 私は無実なのッ!!」
すとん、と。
シビルが椅子に座り直し、長い溜息をついた。
歴史を紐解けば、ひとつの胎から聖人と愚者が産まれてくる事は、そう珍しくないとわかる。だが当事者となればその心情は計り知れない。
シビルは家族に恵まれなかった。
これから、もっと、誰よりも、幸せになるべきだ。
そう思った。
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